凍 (新潮文庫)

凍 (新潮文庫)

最強のクライマーとの呼び声も高い山野井泰史。彼が挑んだのはヒマラヤの難峰ギャチュンカン。登山には頂上を目指す目的とは別に、如何に難度の高い壁を登りきって登頂出来るかが重要とする傾向があり、山野井は単独での困難な登山を繰り返し、世界的にも有名な男だった。
山野井はギャチュンカンの北壁を妻である妙子とともに、牙をむく吹雪の中アタックを開始する。妙子もまたクライマーの世界では有名な、そして優秀なクライマーであった。しかし、その二人を以ってしてもギャチュンカンは甘い顔など見せず、絶えず緊張を強いられてしまう。
読みながらも閉塞感に捕らえられ、息苦しくなってしまった。
『凍』は実際の登山をベースにしたドキュメント作品である。と同時に夫婦の絆を描いた作品でもある。
お互いの実力を認め、だからこそ山野井と妙子は言葉を交わさなくとも通じ合える間柄であり、この小説は、ある意味夫婦間の絆を通した究極の恋愛小説かもしれない。

草祭

草祭

『美奥』という異世界への道を開いてしまった人間たちのそれぞれの物語。『美奥』はその人にとっては理想郷であったり、現実あるいは日常であったり、忌むべき魔の巣窟だったりして、実態が不明確な世界。
作中には『美奥』の始まりのお話も収録されていますが、悲しいエピソードであります。
全編通して『魔』の存在は多かれ少なかれ存在していて、それは「魔が差した」とも似ています。人間の思いが実は一番怖いのかもしれません。