ミノタウロス

ミノタウロス

本の雑誌07年度ベストテン第1位の作品読了。
恥ずかしながら佐藤亜紀さんを知らず、表紙買いした作品で、最初のころは海外小説を翻訳したような独特の文体に少々手こずっていたのですが、あ、そういうもんなんだ、と腹に落ちてきてからは読み進めるのが早くなりました。それにしてもこのお話、どこまでもどこまでも人間が人間らしく生きることが許されず、獣のような人生を送る様が克明に描かれていて、読み終えて鳥肌が立ちました。
重松清の『疾走』を読んだときにも人間が落ちるだけ落ちていく様を目の当たりにしたのですが、あのお話は最後にふっと浮かばれますが、このお話は浮かばれません。
マズローの5段階欲求説の底辺にある『生きる欲求』を満たすために、主人公と彼を取り巻く人間たちは欲望のまま行動します。怪物ミノタウロスのように。まだ歴史に近い近現代を舞台にしているとは思えないほど凄絶な世界に若干酔い気味です。